民法の改正

13-5-1 配偶者に対する特別受益については特例があります

特別受益とは、相続開始にあたって遺贈を受け、また被相続人の生前中に被相続人から特別に贈与を受けていたことです。
特別受益を受けた相続人が存在している場合に、各相続人の相続分を法定相続分に従い計算すると公平性が図れません。
これを回避するため特別受益の額を相続財産に加算した額を相続財産の合計額として、これをもとに遺産分割を行い、特別受益を受けた相続人の相続分から特別受益の額を控除してその相続分とすることになります。
この計算方法を「特別受益の持ち戻し」と言います。
しかしこの規定を適用すると配偶者が相続する場合に不利になることが多々ありました。
そこで民法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦間で行われた居住用財産の贈与については、特別受益として遺産に持ち戻すことを免除するという被相続人の意思が推定されることになり、原則として自宅の生前贈与については相続分の計算からは除外されました。
なおこの推定が適用されるのは令和元年7月1日以降の贈与からであり、それ以前に居住用の財産を贈与し、持ち戻し計算を避けようとする場合には、別途、遺言などで意思表示をすることが必要です。

13-5-2 預貯金債権の仮払いができるようになりました

令和1年6月30日までに相続が開始した場合、相続人の一人が金融機関に被相続人の死亡の事実を知らせた場合には、被相続人名義の預貯金口座は凍結され、現金の引き出しはもちろん、公共料金の自動振替や送金、入金が一切できなくなってしまいました。
このような状態になりますと、葬儀費用等の支払いはもちろん遺族の生活費等の手当も困難になってしまいます。
これを解決するために令和1年7月1日以降は「預貯金の仮払い制度」が創設されました。
これにより遺産分割協議成立前でも一定の金額は引き出すことが可能になりました。
引き出すことが出来る金額は、個々の相続人について150万円を限度として、死亡時の預貯金残高に法定相続分を乗じた金額の1/3の金額です。
この金額は、金融機関ごとに適用されますので口座を複数持っていたほうが、より多額の預貯金を引き出すことが可能になります。

13-5-3 遺産分割前に遺産が処分された場合の遺産の範囲が見直されました

相続開始時に現に存在している遺産が遺産分割協議成立前に処分された場合には、その処分された遺産は、相続人全員(遺産を処分した相続人は除きます。)の同意により遺産分割時に存するものとして、遺産分割の対象にすることができます。
例えば相続人Aが、相続開始後に相続財産を勝手に処分して利益を得たような場合にはその利益相当額を遺産分割の対象にして、相続人Aがその利益相当額を相続したとすることになるでしょう。
この規定は相続人以外の者が遺産を処分した場合にも適用があります。
ところでこの規定は民法の「遺産分割の対象にすることができる」規定であり、民法では遺産分割の対象にするか否かは任意ということになります。
それに対して相続税法では、相続開始時に現に存した財産のうち相続税の非課税財産以外の財産は、相続税の課税の対象となります。
このことから遺産分割前に処分された遺産も遺産分割の対象に含める必要があります。

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