債務の控除

12-2-1 借入金の控除

被相続人が死亡した際に借入金債務がある場合には、相続財産の総額から控除することができます。これは相続税が相続によって受けた利益に対して課税される税金であるため、債務を引き継ぎ負担する場合には、その利益はそれだけ減少するためです。
例えば相続により預金5千万円ずつを相続した二人の相続人について、そのうち一人(A)は債務を引き継がず、もう一人(B)は3千万円の債務を引き継いだ場合を比較します。
この場合Aは5千万円が相続税の課税対象になりますが、Bは5千万円から引き継いだ3千万円の債務を控除した2千万円が相続税の課税対象となります。

12-2-2 未払医療費・未払金税金等の控除

被相続人の相続財産から控除できる項目は借入金だけに限りません。
相続開始の時に確定している債務は、相続によって受けた利益を減らすので相続財産の総額から控除します。
例えば被相続人が亡くなる直前まで入院をしていた場合、その医療費の支払は相続開始後になりますが、この医療費は債務として相続財産の総額から控除することができます。
またそのほかにクレジットカードなどを使用していた場合、相続開始後に引き落としになる部分も未払金として控除が可能です。
そのほかに準確定申告で税額が確定した相続開始年分の所得税・住民税・健康保険料なども被相続人の未払金として控除が可能です。

12-2-3 預かり敷金・保証金の控除

被相続人が生前に不動産賃貸業を営んでいた場合に控除できる債務は注意が必要です。ここまでの説明にある借入金や未払金以外にも、居住者から預かっている預かり敷金や預かり保証金も被相続人の債務として相続財産の総額から控除することができます。
注意が必要な点として、預かり敷金や預かり保証金を償却して戻さなくていい部分がある場合には、その償却した部分を除いた金額が債務控除の対象になるので、かならず不動産賃貸借契約書の内容を確認してください。

12-2-4 親子間の借入金は問題です

親が子にお金を貸すことはよくありますが、税務上は要注意です。
まずは貸付時については、その返済期限や返済方法、利息等を定めて金銭消費貸借契約書を作成する必要があります。
またその返済は現金ではなく、双方の名義の預金口座を通して返済し、後から見てもその履歴が確認できるようにすることも大切です。
なぜそんな面倒なことをするのかと言われるかもしれませんが、過去において、上記のようなしっかりした取り扱いをしていなかったために、借入としての実態が無く贈与であるとの認定を受け、多額の贈与税を負担することになったケースがあるからです。
次に親が子にお金を貸したまま死亡したケースを考えてみます。
通常、子は親が自分に貸している貸付金を相続しますが、これを子からみれば自分対する貸付金を自分が相続することになります。
これは民法上で『混同』といい、同一人のもとで債権と債務が相殺され消滅することになります。
しかし相続税での取り扱いは、一旦、自分に対する貸付金を相続財産として申告する必要があります。そしてその直後に混同により消滅するという取り扱いになります。
相続してもすぐに消えてしまう財産を申告しなければならないという、少し納得し難い取り扱いのように感じらますが、実際に『親からの借入金という債務が消滅したことによる経済的な利益』を受けていますので相続税の課税対象となると理解してください。

12-2-5 不確定債務という債務があります

相続財産の総額から控除ができる債務は、相続開始の際に現に存在していて、かつ確実な債務に限定されます。
それでは確実な債務とはどういったものか、それは『債務の相手方・返済期限・支払額』のすべてが確実な債務をいいます。
言い方を変えれば上記のいずれかが確定していない場合には、それは確実な債務とはならず債務控除の対象とはなりません。
しかし確実な債務とは必ずしも書面で確定している必要はありません。
例えば被相続人の通帳に定期的に出金があり、その出金の相手方に問い合わせたところ貸付金(被相続人から見た借入金)の返済であるとの確認を得られた場合には、金銭消費貸借契約書等がなくても債務控除の対象になります。
逆に『現金で借りた債務がある』といった場合、それが客観的に示される証拠がなければ確実な債務とは言えず、債務控除は難しいと考えられます。
次に保証債務については、相続開始時点において履行義務が発生していない場合や、発生したとしても求償権が発生することから、通常は債務控除の対象にはなりません。
しかし相続開始時点においてにすでに返済の履行義務が発生しており、また元の債務者に資力がないことから求償権が実質的に評価できないようなケースでは債務控除が認められます。
ただし債務が存するか否か基準は相続開始時点になるため、例えば相続開始後に保証債務の履行義務が確定しかつ元の債務者に資力がない場合であっても、被相続人の債務控除とはならないと考えられます。

12-2-6 香典返しは控除されません

相続財産の総額から控除できるのは債務だけではなく、被相続の葬儀に要した葬式費用も控除できます。
ただし葬儀に要した費用を全て控除できるとは限らず、例えば初七日法会や四十九日の法会費用は本葬とは別なので控除ができません。
また遺体解剖費用等、位牌費用等も控除することはできません。
一方、香典返戻費用には控除されません。
その理由は、香典について社会通念上妥当と認められるものは相続税の課税の対象にならないため、その返礼である香典返戻費用も控除対象にはならないのです。
ただし会葬御礼費用(香典の有無・大小にかかわらず参列者一律に渡される御礼品)は控除が可能ですので、両者を混同しないよう注意が必要です。

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